無能のダニング=クルーガー効果とは?自信過剰なド素人の特徴と対処法

無能のダニング=クルーガー効果(Dunning–Kruger effect)とは、認知バイアスの一種で、知識や経験が乏しい人ほど自分の能力を過大評価しやすくなる現象のことです。自己愛性人格障害者は、無能のダニング=クルーガー効果に陥りやすいという特徴があります。

ダニング=クルーガー効果によって、無能な人ほど自己過大評価し、有能な人ほど自己過小評価する傾向があります。
的外れな意見を堂々と主張するド素人と、慎重に発言する有識者は、まさにダニング=クルーガー効果の典型的な例といっていいでしょう。
つまり、発言の勢いや強気な態度だけで、相手の能力を判断するのは危険なのです。
ここでは、前者の「無能のダニング=クルーガー効果」について解説していきたいと思います。

無能のダニング=クルーガー効果は、SNSで誹謗中傷する人や、詐欺に引っかかる人によく見られる特徴です。
無能のダニング=クルーガー効果について知ることで、相手がこの効果に陥っていることを見抜いてトラブルに対処することができ、また、自分がこの効果によって判断ミスをすることを防ぐこともできます。

無能のダニング=クルーガー効果の特徴と具体例

無能のダニング=クルーガー効果は、簡単にいえば「無能かつそれに無自覚」の状態です。
ダニングとクルーガーの研究によって、能力の低い人には、以下のような特徴があると判明しています。
・自身が無能であることを認識できない。
・自信の能力不足の程度を認識できない。
・他者の能力の高さを正確に推定できない。
・その分野についてしっかり学習すると、自身の能力不足を認識できるようになる。

無知故に自身の無知に気づくことができず、過大な自信をもってしまうのが、無能のダニング=クルーガー効果です。
勉強や練習を始めたばかりの初心者が「自分は特別センスがあるに違いない」と勘違いしてしまったり、趣味レベルの人が「自分はプロやアマチュアとして通用するだろう」と錯覚してしまったりするのは、無能のダニング=クルーガー効果によるものです。
また、無能のダニング=クルーガー効果によって、他者の評価を誤ることもあります。
例えば、自分と同レベルの仲間を過大評価したり、自分より優秀な人を「少し頑張れば自分もすぐ追いつけるだろう」と過小評価したりすることがあります。
若者や初心者が、年長者や上級者に「生意気だ」、「調子に乗っている」と注意されてしまうのは仕方のないことで、このような指摘を受けることによって、自分のレベルを自覚できるようになっていくのです。

無能のダニング=クルーガー効果の例として、以下が挙げられます。
・ド素人なのに自論でプロをバッシングする人
・少し政治をかじっただけで社会運動にハマる人
・詐欺に騙されたり、投資で失敗したりする人
・色々と手を出しては投げ出す飽きっぽい人

無能のダニング=クルーガー効果の最も身近な例は、ネットの誹謗中傷やバッシングです。
例えば、SNSなどで、一般人がアスリートに対して、練習不足だとかセンスがないなどとダメ出しするコメントがよく見られます。
オリンピック選手について、ああするべきこうするべきとド素人が説教のようなコメントをするのは、滑稽としか言いようがありませんが、本人はそれを自覚していません。
彼らは、いくらか試合の観戦をしたり、スポーツの記事を読んだりしただけの浅い知識で、評論家になった気でいるのです。
スポーツ未経験で表面的な知識しか持たない人は、アスリートが日々どのような努力をしているか、高度なテクニックを身につけるのがいかに難しいかを体験として知らず、その無知に気づくことすらできないのが原因です。
無能のダニング=クルーガー効果は、自信過剰によって気が大きくなることで、過度に強気な発言をしてしまうことがあるのが問題点です。

少しは知識や経験があるものの中途半端であり、過剰な自信を持っているというのが、無能のダニング=クルーガー効果のポイントです。
政治の知識に少し触れただけの大学生が学生運動に熱中したり、学のない芸能人がSDGsの流れに感化されて政治的発信を繰り返すようになったりするのも、分かりやすい例です。
デモやSNSでのハッシュタグ運動において、言葉や文言が上から目線で高圧的なものが多いのが、過剰な自信に突き動かされている証拠です。
彼らの本質は、「他の同世代や平凡な大人達は政治に興味も知識もないのだろう」と見下す歪んだ自信なのです。
また、このような運動は、同程度の低レベルの人々が集まってしまうため、「井の中の蛙」の状態になり、自身の知識の浅さや、視野の狭さに気づくことができなくなり、過剰な自信が強化されてしまいます。
無能のダニング=クルーガー効果に陥った集団に属すると、そこから脱するのが困難になるというのも問題点です。

無能のダニング=クルーガー効果は、頭の弱い人だけでなく、高学歴や専門職でも陥ることがあります。
例えば、医者が投資で失敗したり、高学歴の人がマルチ商法やカルト宗教に騙されたりするのは、よく聞く話です。
いくら学力が高くても医者は仕事上、金融の知識に触れないため、自身の知識不足に気づけないまま強気な投資判断をしてしまうのが原因です。
高学歴の人も、受験勉強ではネットワークビジネスや哲学などは学習しないため、無知な人を騙すプロである詐欺師に嵌められてしまう可能性があります。
詐欺師は、無能のダニング=クルーガー効果を利用して、初心者の自信を煽るのが得意なのです。
セミナーや集会で、「あなたはセンスがいい」、「あなたは絶対に成功する」などと褒め、気分を高揚させ、大金を払うようコントロールするのです。

色々な分野に手を出しては脱初心者になる前にやめてしまう「飽き性」も、無能のダニング=クルーガー効果が関係していると考えられます。
自分にとって新しい分野の勉強や練習を始めると、少しできるようになっただけで大きな自信が得られ、意欲が一時的に上がります。
しかし、勉強や練習を進めていくにつれ、上級者とのレベル差を自覚できるようになります。
上級者の域に到達するためには多くの努力と長い時間が必要なことが分かってしまい、嫌気がさしてやめてしまうのです。
物事を継続できない飽きっぽい人は、無能のダニング=クルーガー効果によって学習初期に得られる自己肯定感を追いかけ続けている訳です。

学力、職業、世代問わず、誰でも無能のダニング=クルーガー効果に陥る可能性があります。
無能のダニング=クルーガー効果に陥った人に対処するためにも、自身がこの効果に陥らないよう予防するためにも、その原因について知ることが大事です。

無能のダニング=クルーガー効果の原因と対処法

無能のダニング=クルーガー効果の原因は、メタ認知が正しく機能しないことです。
メタ認知とは、自己の認知の状態をさらに認知すること、つまり、自分を客観視することです。
ある分野の全体像について十分な知識を持っていれば、その分野の自身の理解度や立ち位置を客観的に判断することができます。
しかし、知識が不十分であると、自身の知識の範囲が狭いことや、理解の程度が浅いことに気づくことができません。
知識や経験の不足によって内的な認知が歪んでしまい、自身の能力を過大評価してしまうのが、無能のダニング=クルーガー効果のメカニズムです。
つまり、自分があまり詳しくない分野については、誰でも無能のダニング=クルーガー効果に陥るリスクがあるのです。

では、無能のダニング=クルーガー効果を防ぐには、どうすればいいのでしょうか?
それは、他者から指摘を受けることで、自身の能力不足を自覚することによって、解決できます。
自分の持っている知識が不十分であれば、より詳しい人にそれを指摘してもらえばいいのです。
学校や職場、習い事の指導の現場では、それが自然と行われ、無能のダニング=クルーガー効果をある程度防ぐことができているという訳です。
浅学なのに偉そうに振る舞う態度が目に余る人物がいれば、荒療治として、上級者がコテンパンにして無知を自覚させるのがいいでしょう。
また、日本では、「謙虚さ」を大事にする文化がありますが、これも無能のダニング=クルーガー効果を防止するのに役立っており、先人の知恵といっていいでしょう。
謙虚な人は、「自分にはまだ何か不足しているかもしれない」と常に自身を客観視するのが習慣となっているため、他者から指摘されなくても能力不足に気づくことができるのです。

人が無能のダニング=クルーガー効果によって暴走してしまうのには、以下のような条件があります。
・他者からの指摘を受ける機会が少ない環境(外的要因)
・他者からの指摘を受けつけない気質(内的要因)
・自分の考えは絶対に正しいと強く思い込む気質(内的要因)

スクールに通わない独学による学習だと、無能のダニング=クルーガー効果に陥りやすくなるでしょう。
また、他者の助言を聞き入れようとしない頑固な人や、自分は絶対に正しいと思い込む自己中心的な人は、無能のダニング=クルーガー効果によってトラブルを起こしやすいでしょう。
このような無能のダニング=クルーガー効果で暴走しやすい気質として代表的なのが、自己愛性人格障害です。

無能のダニング=クルーガー効果と自己愛性人格障害の関係

自己愛性人格障害(NPD:Narcissistic Personality Disorder)とは、自己愛が肥大化し、物事を自分本位でしか捉えることができなくなる精神疾患です。
虐待、DV、パワハラ・モラハラ、ストーカー、いじめ、ネットの誹謗中傷の加害者となりやすい悪質なパーソナリティを持ちます。

自己愛性人格障害者は、無能のダニング=クルーガー効果に陥りやすい代表格です。
なぜなら、自己愛性人格障害は、以下のような特徴があるからです。
・褒めだけを求め、厳しい指摘から逃げる脆弱な気質
・自己中心的で自分が絶対に正しいと思い込む傲慢な気質

無能のダニング=クルーガー効果を予防する最も簡単な方法は、他者から指摘をもらうことです。
しかし、自己愛性人格障害者は、賞賛だけを求め、能力不足を指摘されると、不機嫌になったり逆ギレしたりしてシャットアウトしてしまいます。
また、自己愛性人格障害者は、謙虚さが乏しく、常に根拠のない自信を持っています。
何かで失敗すると他責思考で環境や他者のせいにし、自分の能力不足を反省することもありません。
その結果、自己愛性人格障害者は、無能のダニング=クルーガー効果にどっぷりハマり、誇大妄想に陥ってしまうのです。

無能のダニング=クルーガー効果は、精神疾患や障害のない健常者でも起きる現象ですが、この傾向が極端に強い人物は、自己愛性人格障害を疑ってみるといいでしょう。

まとめ

無能のダニング=クルーガー効果の特徴と原因について解説しました。
無能のダニング=クルーガー効果によって、誰でもあまり詳しくない分野において自身を過大評価してしまう可能性があります。
これは、他者からの指摘を受ける、日頃から謙虚な姿勢を持つといった対策によって、防ぐことができます。
また、自己愛性人格障害者は、無能のダニング=クルーガー効果の影響が強く出やすいという特徴があります。
自分あるいは相手が、無能のダニング=クルーガー効果に陥っていないかという視点を持つことが重要です。
無能のダニング=クルーガー効果について、前知識があまりないからこそ恐れ過ぎず大胆な挑戦ができるという、肯定的な意見もあります。
ただし、知識や経験の浅い者による無謀な挑戦が成功につながるかどうかは、結果論であることを忘れてはいけないでしょう。

参考文献
「Unskilled and Unaware of It: How Difficulties in Recognizing One's Own Incompetence Lead to Inflated Self-Assessments」(1999, Justin Kruger and David Dunning)